実業之富山アーカイブ

実業之富山アーカイブ

②GHQの検閲

第二次世界大戦の敗戦から数年間、日本は連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ) の占領下にあった。この間、新聞、雑誌、書籍などすべての刊行物はGHQの検閲の対象となり、占領政策に対する批判や軍国主義思想などは厳しく統制された。実業之富山編集部に残る当時のゲラ(校正)刷りに、GHQの検閲の跡が残っている。

「実業之富山」1947年5月号表紙ゲラ刷り

「実業之富山」の検閲は1947年1月号から始まった。この号は雑誌発行後の事後検閲であったが、次の2月号から事前検閲となった。雑誌発行者はゲラ刷り2部を提出するよう求められ、検閲結果を記したゲラ刷りの1部が返送された。これは小誌編集部に戻された検閲済のゲラ刷りである。



同上 部分拡大

表紙の左上に「galley proof」(ゲラ刷り)と記され、中央部に金魚鉢のようなスタンプが捺されている。スタンプの真ん中には検閲済であることを示すCP(Censor Passed)マーク、上のほうにはC.C.D.-171の番号がある。C.C.D.は検閲の実施部隊であるCivil Censorship Detachment(民間検閲支隊)の略称で、検閲官ごとに固有の番号が割り当てられていたという。

「実業之富山」1947年3・4号表紙ゲラ刷り

表紙に書かれた文字は薄くて読みづらいが、「Passage on page 19 withdrawn voluntarily」と読める。該当ページをみると、10行にわたって囲みがあり、「自発的にとる」と手書きの文字が添えられている。発行者がCCDにゲラ刷りを提出する際に、自発的に記述を削除したとみられる。

削除した記述

削除したのは、「高岡銅器とアルミニューム鋳物」と題した記事の2ページ目にある次の記述である。

「先般金沢市に於て連合軍総司令部経済科学局輸出入部雑貨工芸係官のクック氏隣席のもとに開催された北陸近県工芸品批判会の席上で、本県出品の花瓶を見て高岡銅器復興状況を聴取し是非此の見本を次回の輸出協議会に提出して欲しいとの要望があり今後」

文中に「連合軍総司令部」の名前があること、貿易に関する記述があることがプレスコードに触れる恐れがあると判断して、そうなる前に自発的に削除したものとみられる。

*プレスコード
GHQが新聞などの報道機関を統制するために「日本に与うる新聞遵則」として発令した規則。



1947年7月号巻頭言 検閲箇所

1947年7月号の事前検閲において、巻頭言の次の記述が削除となった。

「亦、大戦後のロンドン市民についてその伝へる所を見ても、すつかりすり切れてしまつたオーバーをまとい、ボロ車を乗り廻しているのが目だつ有様で、『車を愛する事、妻君以上なり』と言はれている英国人にとつては、およそ、その経済的窮迫をもつとも端的にあらはしているものと言へよう。」

イギリスの経済状況に関する記事であるが、なぜ該当部分だけが削除となったのか。発行者には記述の削除のみが指示され、その具体的な理由は示されない。かくして、巻頭言は下の写真のように訂正されて刊行された。

該当記事に関するGHQの検閲書類

GHQが検閲のために集めた出版物や作成した文書は、検閲廃止後、GHQ戦史室に勤務していたゴードン・W・プランゲ博士の本務校である米国メリーランド大学に移送された。その資料群は「プランゲ文庫」と呼ばれ、日本の国会図書館にもマイクロ化された資料群が保管されている。

先の記事に関する検閲文書もプランゲ文庫に残されている。それによると、検閲による措置は「Deletion」(削除)、その理由は「Criticism of Britain」(英国に対する批判)とある。プレスコードでは連合国に対する批判を禁じており、該当記事は揶揄的にイギリスの状況を書いたことが違反理由となったようである。

全面削除となった記事

1947年9・10合併号の「新米価二千五百円を要求」という記事はまるごと削除となった。米価は国民にとって重大関心事であり、特に問題となるような記述は見当たらないが、米価に言及すること自体がプレスコード違反とされたようである。

語句の訂正程度なら部分的な直しですむが、ページの大半を占める記事が掲載不可となると、台割り(ページ建て)が大きく狂ってしまう。新たな記事に差し替えると発行が遅れてしまうので、このページは急きょ広告ページに変更された。

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