フロンティア

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—きらりと光る富山の企業—

小ロット多品種生産でニッチ市場に特化
地域営業を深耕、ニーズを掘り起こす
《タカオカパックス》

 さまざまな荷物を安心、確実に届ける梱包材として使われる段ボール。日本では回収率95%以上とリサイクルの優等生であり、自然由来の紙製品だから環境負荷も少ない。どんなに材料開発が進んでも、コストと利便性において、いまだ段ボールを超える梱包資材はないといわれる。

 だが加工業界のコスト競争は激しい。ごみの減量化が求められるなか、製品全体を包装する形態から要所だけ保護する簡易包装への流れは、段ボール使用量の減少にもつながり、業界の連携、再編への模索も広がる。

 こうした業界にあって、小ロット多品種生産に特化する経営戦略で特異性を発揮しているのが、段ボール一貫生産のサクラパックス(富山市、社長橋本淳氏)を親会社にもつタカオカパックス(射水市、社長橋本澄雄氏、資本金4,200万円、従業員37名)である。

橋本澄雄社長(右)と石黒比登志工場長(肩書きはいずれも2017年取材時)

建材メーカーの需要に応えて成長

 段ボールケースの製造工程は段ボールシートに印刷を施し、折り曲げの罫線を入れ、型取りして切断するシンプルな流れだ。引っ越し用の段ボールケースや需要規模の大きい飲料用のケースは、印刷から切断まで全工程を一ラインで自動化できるため、加工単価は安くとも少品種大量生産を得意とする大手に中小メーカーは太刀打ちできない。

 同社が手掛けるのは、大量生産に乗らない小ロットで、中でも長さ4メートル前後の「長尺もの」と呼ばれる、建材やエクステリア製品を梱包する特殊ケースが中心。顧客の好みが多様化し品番・サイズが豊富になるととともに、段ボールに対する多品種と少量生産のニーズは増える一方だ。建材大手が立地する富山県西部に工場をもつ地の利を生かし、同社は30年近くにわたりそうした建材メーカーのニーズに応えてきた。現在売り上げ全体のうち建材向けが約6割を占めている。

シートの切断

 通常の加工機で扱えるシートの長さは3.6メートル程度、4メートルを超すと罫線入れや切断、シートの重ね貼りなどの補強作業まですべて手作業となる。それも数十枚単位の特注品だから人海戦術だ。さらには、顧客が作業をしやすいよう段ボールの並べ順も整えたうえで、指定された時間に納入する。

 多品種少量生産はシートの加工ロスが出やすい。そのため現場ではさまざまの改善活動を重ねている。材料の段ボールシートを最大限に生かすため必要面積を綿密に計算して最適なサイズを発注、型抜きの向きも考慮するなどシートの廃棄率を約0.3%にまで改善した。限りなくゼロに近づけるため「無駄をそぎ落とす努力に終わりはない」(石黒比登志工場長)。

御用聞き精神で新たなニーズ探る

 段ボール製品はかさばる割に軽量なので「空気を運ぶ」ようなもの。輸送経費のかかる遠距離には馴染まない。営業範囲はせいぜい半径100キロ以内が限界といい、まさに地域密着型の産業である。遠方に顧客を広げるより、半径100キロ以内の近隣地域の受注を増やすことが利益に結びつく。

顧客の細かな要望に対応

 「遠方で新規開拓できないもどかしさはあるが、逆に言えばライバルもこちらの商圏に参入できないのだから互いの商圏を荒らさないで済む。むしろ地元の顧客を大切にして、段ボール以外のビジネスの機会も作っていく道を探りたい」(橋本澄雄社長)という。

 その一環として、納品したトラックの空きスペースに顧客の製品を載せて配送するサービスを開始。現在1日15便が県内各社に直接配送しているが、顧客の望む配送先と時間、積載物・量が、同社の配送ルートに合致した場合に有料で請け負う。トラックがなるべく空荷で走らないための工夫であり、きめ細やかなサービスを提供することで、顧客との結びつきを深め新たなニーズを探るためである。

生産合理化へ大型設備を計画

 経営に勢いをつけるため近い将来計画として設備更新による合理化を検討している。とくに4台ある印刷・切断機(プリンタースロッター)のうち2台を、4メートルの長尺ものに対応できる大型自動機械始め1台に入れ替える。シートの張り合わせ作業など、人手に頼っていた工程の一部を大幅に省力化し、建材向けの生産効率を上げ、その分、新規の小口顧客の開拓に振り向けるのが狙いだ。

 印刷方式も転写印刷から、製版なしで直接データから印刷できるインクジェットプリンターへの変更も検討中で、少量印刷により低コストで対応できるという。そうなれば、これまで売り上げ比率の低かった食品や機械、プラスチック部品メーカーなど「建材以外にも多様な分野へ仕事の幅を広げられる」(橋本澄雄社長)という。

 たとえば個人商店への営業開拓だ。サイズや形状の異なる、ケース1個2個の注文でも御用聞きの精神で引き受ける。密着営業と小口生産により特化することが中小段ボールメーカーの生き方であり、そこに商機が生まれる。他社に抜きん出るための次の一手を打つ。(「実業之富山」2017年3月号より 記述内容は取材時点のものです)

注:2018年4月から社長は橋本淳、工場長は道野史朗常務が兼任