フロンティア

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—きらりと光る富山の企業—

MIM金型で医療機器分野へ進出
アルミ金型専業から新しい金型ニーズ開拓
《三英工業》

 航空機の心臓部にあたるジェットエンジンや火力発電所の発電装置。これら装置が働くためのパワーとなるのが「タービン」である。タービンの内側には無数の羽根(ブレード)が並んでいる。タービンブレードは1600℃以上の高温にさらされながら回転するため、素材には耐久・耐熱性、軽量化にすぐれたチタン合金が使われ、「ロストワックス」という精密鋳造法で1枚ずつ作られる。

少数精鋭だからこそ応えられる

大代英社長

 三英工業(高岡市福岡町、社長大代英氏、資本金1,000万円、従業員6名、年商1億2,000万円)は、こうしたタービンブレード用金型を設計・製造し、全国でも10社前後しかないロストワックス用アルミ金型専業メーカーである。

 ロストワックスは、製品の形状をかたどった金型にろう(ワックス)を注入し、ワックス模型を作成、ワックス模型の周りに鋳砂など耐火材をコーティングして乾燥させ、それを圧力釜に入れて高圧蒸気でワックスを溶かし出すと、内部が空洞になった鋳型ができる。その鋳型に溶融した金属を流し込む鋳造法だ。機械加工がむずかしい高硬度の金属材料を複雑形状の製品にする場合などに最も適しているとされる。

 同社が手掛けるのは、こうしたワックス模型に必要な金型。大量生産される樹脂成形品向けと異なり、少量多品種や試作品を作る場合に採用されることがほとんどで、金型の受注量は限られる。しかも要求される品質レベルは、誤差のない仕上がりと100分の3ミリ以下の表面精度というきわめて高いものだ。

WAXとアンダーカット構成部品

 そのため工場内は24時間空調をかけ、室温は年間を通して23度前後に保ち、シーリングファンで空気を撹拌して室内の温度差をなくすことで金属の膨張収縮を防ぐなどの設備を整えている。

 また、納品先の現場でスムーズにワックスを流し固め、ワックス模型を傷つけずに簡単に取り出せるよう、金型の部品点数は極力減らし、シンプルで分解しやすい設計をすることを同社はモットーにしている。

 マシニングセンターで加工した部品はそれぞれ三次元測定機で測定し、仕上がりの精度を確認したうえで組み立てに入る。組み立て終えた金型は、三次元測定で得られた数値にもとづいて取得した画像と顧客から受注したデータと照合、誤差がないことを確認したうえで納入する。個々の部品が正確に仕上がっていても、組み付け誤差が生じないようにするためである。

 三次元測定機は接触式と非接触式の2種類を備え、金型の形状や顧客の要望に応じて使い分けている。特に接触式測定機ではひとつの金型につき数十カ所のXYZ座標のデータを取得するため時間がかかるが、航空機部品を受注するには、信頼性を裏付けるために必要な工程である。

 加工も測定も機械で行うが、最終的な仕上げと組み立ては人の手による。データ上では正確な仕上がり状態であっても、実際の成形作業現場でうまく機能しない場合も少なくない。仕上がった金型を実際に動かしながら、開閉時にストレスがないかなどを確認し、手作業で研磨などの微調整を施してようやく完成する。組み立てだけで1カ月を費やすこともある。

 「数十人規模の一般的な金型メーカーではコストは合わない。従業員6名の少数精鋭体制の当社だからこそ、応えられる仕事」(大代社長)なのだ。

国内に残り続ける業界を開拓

 同社の創業は1985年12月。県内のプレス金型メーカーで順送りプレス金型の設計に携わっていた大代社長が、ある商社から、ロストワックス金型の需要が増えつつあるから、専業でやってみないかという誘いを受けた。当時ロストワックスによる鋳造金型はほとんど普及しておらず、大代社長も詳しい知識をほとんど持たなかったが「知らない世界こそやりがいがある」と独立を決意。仲間3人で起業した。

 創業当初は、商社から工業用ミシン部品金型の受注があった以外に仕事はほとんどなく、県内の顧客探しから始まった。唯一タテヤマ精密鋳造という鋳造メーカーを見つけ、いくつかの小さな仕事が得られた。そのときに技術指導に来訪していた川崎重工業との縁ができ、高い評価を得た同社から原子力発電所で使われるタービンブレードの金型を初めて受注。当時の三次元形状の経験が後に三英工業の事業を方向付ける貴重な機会となる。

 川崎重工業からの仕事は一時期だけで、その後大代社長は全国の精密鋳造メーカーを探しながら飛び込みで営業にまわったという。当時はまだ金型専業メーカーが少なかったことも幸いし、新潟や石川、静岡、広島、福岡などの鋳造メーカーと相次いで取引が始まり、90年代半ばにかけて仕事は激増した。しかし多くは価格競争の厳しい自動車関連の受注だったために、睡眠時間を削って働いても、会社の将来が危ぶまれるほど利益が上がらない。しかもしばらくすると、金型製造の仕事は人件費の安い中国や東南アジアに流出し、業界全体の先行きに暗雲が立ち込める。

 「今後も国内に残り続け、適正価格で受注できる業界はどこか」。大代社長が考えた末に行きついたのが航空機と発電だった。価格競争より、何よりも品質重視の業界だからである。

県内初JIS Q 9100認証取得

 とはいえ航空機や発電の会社につてはまったくない。再び該当しそうな企業を探し出すことから始め、そのうちの1社がニダック精密(福島県)だ。「ダメもとでも」と思い切って直接出向いた。ところが思いもかけず同社の役員が応対してくれたうえに、特殊な形状の部品を提示され「作れますか」と問われる。すかさず「作れます」と答えたが、実はこれまで経験したことのない複雑で小さな部品。

大型高速MC、高精度NC放電加工機が並ぶ工場

 会社へ戻ると、従業員からは「断わりましょう」と言われるのだが、それでも従業員を説得して完成にこぎつけた。結果は上々。シンプルな構造に仕上がっている点を気に入ってもらい、今に続く取引が始まった。

 業界に足掛かりはできた。だが、さらに販路を広げるには具体的にターゲットとする製品が欲しい。そして目を付けたのは、一時期だけとはいえかつて川崎重工業から受注したタービンブレードだ。航空機や火力発電にはタービンブレードがつきものだし、本体の金型の受注に成功すれば、ブレードのゆがみを測定する治具などの付帯製品を一貫して請け負うことが可能だ。

 火力発電所向けタービンブレード用金型の仕事はその後、ハウメット・ジャパン(石川県)や三菱日立パワーシステムズ、川崎重工業から安定して入るようになった。しかし航空機向けの受注は容易ではない。そこで2009年3月に県内企業として初の航空・宇宙・防衛の品質マネジメントシステム「JIS Q 9100」に挑戦し認証を取得、同年秋に接触式三次元測定機を導入。厳格な品質管理体制をつくった。

 ニダック精密を訪問する際は必ずIHIの相馬工場に営業訪問を重ねた成果である。それが防衛省や海外の航空機エンジン向けの仕事の獲得に結びつく。現在、売り上げの90%はタービンブレード用金型になり、うち6割が火力発電所向け、4割が航空機向けである。

金型組立

 今年からはタービンブレード内にある冷却通路の金型も製造する。タービンの内部は1600℃近い高温になるため、ブレードは常に冷却する必要があり、ブレード内部に空気を通すセラミック製の複雑な冷却通路が埋め込まれる。この冷却通路をつくるための鉄製の専用金型を受注し、このほど試作を終えた。これまでアルミ金型に特化してきた同社に、鉄の加工経験はほとんどなかったが、新たに導入したマシニングセンターを駆使し難削材、微細加工のノウハウを完成させた。

 

MIM金型で医療機器分野へ

 航空機や発電の分野で安定した受注を確保し、量より質で勝負できる体制は整ったが、近年は3Dプリンターが出現し、金型業界は大きな変化を迫られている。こうした動きに対応して、同社は新たにMIM(金属粉末射出成形法)金型の設計・製造に乗り出す。MIMは金属微粉末にワックスを混ぜたものを金型に流し込み、炉で焼結する成形法である。ロストワックスにおける、ワックス模型から鋳型を得て金属を流すという工程をすべて省き、金型に直接金属材料を流して製品をつくる工程は、コストを大幅に削減できる点で大きなメリットがある。

 焼結によってワックスが溶ければその分、製品は縮む。これまではその収縮率を把握することが困難なためにMIMは普及してこなかったが、最近は収縮率を確実に計算して成形できる技術が確立し、従来は機械加工や鍛造で製造されていた精密機器や医療機器など小型で複雑な製品での採用例が増えているという。

金型の精度確認作業

 MIM金型には金属粉末を流し込むため、金型は焼き入れをした高硬度の鉄でつくる必要がある。同社はタービンブレードの冷却通路用金型で高硬度材金型の製造に重ねてきた経験をもとに、MIMへの参入を決意。昨秋、高精度NC放電加工機を導入し、マシニングセンターではむずかしい高硬度材の加工にも対応できるようにした。すでに福島県の鋳造メーカーから内視鏡の先端に取り付ける鉗子用のMIM金型の引き合いを受けていて、今年末までに製造を開始する計画だ。

 「ものづくりの環境がどう変化していくかを常に探り続け、市場や現場の声に応えていきたい」(大代社長)と、MIM金型による付加価値の高い医療機器分野へ進出することで、金型のニーズをさらに開拓していく。(「実業之富山」2017年8月号より 記述内容は取材時点のものです)

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