熱技術を追究する「炉」の専門メーカー
自動制御・無公害システムの火葬炉でトップシェア
《宮本工業所》
富山市に本社を構える宮本工業所(富山市、社長宮本芳樹氏)。アルミ・鉄鋼分野の溶湯、加熱保持などの工業炉や火葬炉の設計・施工を主力にする、創業1927年(昭和2年)の老舗企業だ。
工業炉は加熱・熱処理や制御・省エネの高い技術力と信頼性で、経済産業大臣賞、発明大賞考案功労賞、素形材産業技術賞中小企業庁長官賞などの受賞歴を持つ国内屈指の工業炉メーカーであり、火葬炉もまた独自の無公害・燃焼システムを備えた「炉」の専門メーカーである。
国内トップシェアの火葬炉
同社が火葬炉に参入したのは1965年。それ以前から宮本幸司朗社長(当時)は工業炉の技術を火葬炉に応用できるのではないかと考えていた。知人の葬儀に参列したとき、斎場を人生最期の別れの場にふさわしい厳粛で清潔な場にしたいという思いを抱き、富山市営斎場の受注を機に新しい火葬炉の開発に取り組むことになった。当時、公害が社会問題化していたが、火葬場では煙や臭いを出さない炉が皆無だったことに着目、工業炉で積み重ねてきた熱処理技術を活かして無煙無臭装置付きの火葬炉を完成させた。
以来、炉内の公害物質の分解除去をはじめ、高度な排ガス処理設備の併設など、幾重にも公害防止技術を施した無公害システムを確立する。
現在、国内の火葬炉市場は大手3社で全体の9割を占めるが、宮本工業所はそのうちの半分以上の圧倒的なシェアをもつ。1966年、富山市営西番斎場に設置したのを最初にこれまで納入した火葬炉は累計3,000基を数え、その数は国内トップメーカーとして他社の追随を許さない。
それだけに新技術を取り込んだ新しい火葬炉の開発に途切れなく取り組んでいる。それが「ミヤモト・エネルギー・コンサベーション・システム」の頭文字をとり「MECS(ミィークス)」と名付けられた最新の火葬炉。

それまでの機械的な制御ではなく、ダイオキシン類を無害化する触媒装置など高度制御システムを導入することで、製品の開発・生産のあり方を大きく変えた。厳しい環境規制で自動車の電子化が急速に進んでいるのと同様に、旧型に比べ搭載する電子機器類は増えるが、炉の耐火材に業界で唯一、セラミックブロックなどを使い、火葬炉設備本体の重量を旧型の15トンから9トンと6割もの軽量化に成功しコンパクト化を実現した。
火葬場には「炉前」「炉裏」という言葉がある。遺族が最期の別れをするのは「炉前」であり、一般の人々が「炉裏」に入ることはほぼない。しかし「究極のお見送りとは、将来的には喪主が火葬炉の点火ボタンを押すくらいになってもよいのではないか。そうならずとも、違和感のない洗練されたデザインを求めることこそ、葬儀の尊厳を保ちながら、遺族の心情に寄り添う」との考えで開発が進められた。古くからの火葬炉の概念を覆す「炉」である。
行政から寄せられる厚い信頼
亡き人との最期の別れである葬送は、国や地域、文化、風習、宗教によってさまざまだが、日本は火葬が99.9%を占める火葬先進国だ。365日ほぼ毎日火葬が行われ、メンテナンスは欠かせない。2011年の東日本大震災時、宮本工業所が火葬炉を納めていた斎場は被災地に51カ所あった。技術スタッフがすぐさま緊急点検に走り、津波で全壊し最も被害が大きかった仙台空港近郊の斎場も2週間で復旧させるなど、高い機動力で対応した。

空間を体感できる3Dプロジェクションを完備した「MiBOX」を併設。
30~40年と火葬炉を長く使ってもらうために信頼は欠かせない要素であり、行政から寄せられる厚い信頼は業界での高いシェアの大きな理由のひとつでもある。2019年には黒部工場敷地内に体験型施設「MiBOX(エムアイボックス)」を建設。部屋の壁全面に配した幅8・5メートル、高さ5メートルの大型スクリーンに映像を映し出し、あたかも実際の斎場にいるような感覚で模擬体験できる。出荷前の火葬炉の工場検査に行政の職員や設計事務所など関係者が立ち会えるほか、これからの海外市場開拓につなげる営業戦略基地の役目も担っている。
最期のお見送りは究極のサービス業

同社のグループ会社に「五輪」がある。九州のある自治体から「火葬専門の会社を作ってくれないか」と相談されたことをきっかけに、斎場におけるサービスを受託する会社として1980年に設立された。予約受付やセレモニー進行、斎場建物、敷地内外の清掃から植栽管理、除雪に至るまでサービス業務の範囲は広い。今や北海道から九州に至る全国約210カ所に従業員800人を抱えるネットワークを広げるまでに成長した。
「人生の終焉を尊く、厳かに―。最期のお見送りは究極のサービス業です。サービスに対する誇りと責任感を持って働いてもらうためには、安定した給与と雇用形態が必要だと考え、従業員は原則現地の人材を正社員として採用、近年は若い世代や女性のスタッフも増えている」(宮本岳司朗会長)という。
韓国、ベトナムへ輸出始まる
こうした同社の火葬炉技術への評価は海外にも広がっている。なかでも東南アジアを中心に引き合いが増えており、現在、韓国とベトナムに宮本工業所の火葬炉輸出の計画が進められている。10年前にソウルの火葬場に炉を納めた実績はあるが、当時は現地企業と技術提携し技術供与という形だった。
現在、ソウル近郊の華城(ファジャン)市で約214,000平方メートルの敷地に火葬場、葬儀場、墓地などがそろう墓地公園の開発が進められている。同社は今年6月に火葬炉13基を納入、7月中には据え付けし、12月には試運転を終える計画だ。
韓国の火葬率は現在99%と日本と同水準にあるが、地元富山で改修中の火葬炉11基を有する富山市西番斎場や、2009年に完成した10基の高岡斎場と比較しても、大規模な斎場となる。
ベトナムは、土葬が主であり、火葬率は1割に過ぎないという。土葬は墓地に敷地面積を要するほか、衛生面や環境面への配慮もあり、政府は数年前から火葬を推奨するようになった。特に土地の少ないハノイやホーチミンなどの都市部では、火葬する場合はその費用を国が補助する政策も打ち出している。日本や韓国の場合、火葬場は公共施設として自治体が建設するが、社会主義国家であるベトナムは、国が墓地の開発権をディベロッパーに付与し、その企業が火葬場の運営を行う。
「4年前、市場調査でベトナムに赴いた際、墓地公園を運営するディベロッパーの経営者との出会いがあった」と、前田浩志企画部課長は振り返る。そのベトナム人社長は火葬の将来需要を見込み、海外の火葬炉メーカーを探していたものの、機能面で課題を抱えていて日本のメーカーを探していたところだったという。
2017年、宮本工業所はそのベトナム企業と技術提携を締結。ハノイから南西に約50キロのホアビン省の墓地公園に併設する形で火葬施設の建設が決まり、今年5月に火葬炉2基の売買契約を結んだ。年内をめどに輸出し、来年の供用開始を目指している。
海外ともリアルタイムで遠隔保全
日本に比べ、土葬が主であるベトナムは棺のサイズが大きく厚みもあり、同じ火葬とはいえ燃え方は異なるためベトナム仕様にするための試行錯誤も多い。実際の火葬に立ち会い、ベトナムの棺を取り寄せあらゆるデータを吸い上げて検証し、シンプルなスタイルに見直しするなど火葬炉の設計変更や、人体の成分に似た物質を用いた燃焼試験を幾度となく実施してきた。
「現地で組み立てる際、技術者を日本から派遣して貼り付けるのはコストが嵩む」ことも課題として残った。
これには、宮本工業所の特許技術である遠隔保全システムが強みを発揮する。現地に行かずとも温度の上昇や要した時間、燃費などのデータをリアルタイムで見ることができるという。制御機械の情報をインターネット回線を使ってやり取りできる仕組みで、産業用工業炉の技術を火葬炉に転用したものだ。
世界的に火葬を推奨する気運にあるとはいえ、東南アジア圏の仏教国でも火葬の需要はまだ未知数とみる。ベトナムでは殊に富裕層は広大な墓地と土葬を好む傾向が根強い。さらに、自治体による火葬場の新設は周辺住民の理解を得られず、建設がすんなり認められないのはいずれの国でも事情は同じだ。
2018年4月に同社初のベトナム国籍の社員として入社したボー・ヴァン・テイさんが「慣習や風習が残り、切り替わりまで時間がかかっても当社の火葬炉を普及させていきたい」と言えば、「MADE IN JAPANの火葬炉と、MADE IN JAPANのサービスノウハウを提供することで、我々がイメージを変えていければ」(前田企画部課長)とテイさんに期待を込める。
日本国内の斎場は現在1,432を数えるが、同社は工事中の案件も含め25斎場で、火葬炉127基の受注残を抱えている。年産70~80基の能力を備える黒部工場の一貫ラインはフル操業が続く。